1. 最初にすべきこと

 「JASRACの役割」の項を読まれた方は、JASRACとのやり取りだけで演奏会が成立するような印象を持たれたかもしれません。しかし、そのようなビジネスライクなやり方は、少なくともギタマン人には馴染まないように思われます。まず作曲家と連絡を取り、これこれこういう演奏会で先生の曲を取り上げたいのですが差し支えないでしょうか、とご挨拶することから始めるのが筋でしょう。
 現実問題として、出版譜がない作品のスコアを購入するには直接連絡を取るしかないでしょう。また、作曲家の中には再演を希望しない曲について演奏を認めない方針の方もいらっしゃいますので、演奏可能かどうかの確認の意味もあります。
 その他にも、演奏を録音して残してもよいか、出演者の記念用にCDを作ってもよいかなど、なにかにつけて作曲家に相談することが必要になります。JASRACが著作権を押えているからといって作曲家に対する礼を失しては問題外です。

2. 楽譜

 無事作曲家とコンタクトでき、演奏の許可と楽譜を手にすることができたとして、スコア一部だけ、あるいはスコアとパート譜一式だけで演奏会を開くことはできません。出演者全員にパート譜を渡すわけですが、ここで「複製権」が問題になります。作曲家がJASRACと信託契約を結んでいなければ演奏の許可と同時にパート譜を人数分コピーする許可を取ればいいわけですが、信託契約がある場合にJASRACに無断でパート譜をコピーするのは著作権の侵害になります。信託契約により著作権がJASRACに移っていることを忘れないでください。作曲家に対する礼儀と法律を混同してはいけません。

出版使用料

 さてどうしよう、こっそりコピーしてしまおうか、などといかがわしいことを考える前にJASRACのホームページ(http://www.jasrac.or.jp/)の「資料集」にある「著作物使用料規程」を見てみましょう。第5節「出版等」から該当する記載を探すわけですが、念のためお断りしておきますと、ここで言う「出版」は楽譜をコピーすること、「出版物」はコピーで作ったパート譜を指します。この点だけ誤解しなければ、間違いなく「その他の出版物」であって「定価がない」に該当することが分ります。その場合の使用料は「2,500部まで1,800円」です。実際には消費税相当額90円を加算して1,890円ですが、ホントにこれだけでいいの?ってくらいの安さです。早速JASRACから申請用紙を取り寄せて手続きを済ませてしまいましょう。
 出版譜がある場合は、以上と若干異なります。まずは、必要分だけ出版譜を購入することを考えましょう。しかし、購入には現実上の問題がある場合、例えば、極めて高価なスコアしか販売されていない場合などもありえます。そのような場合には、その出版譜を出版している出版者に連絡を取り、判断を仰いで下さい。出版譜の複製については、状況が一様ではありませんので(「2. 出版権者とその権利」「権利の内容」を参照)、「別の出版譜では良かった」方式でも適法ではない場合もあり得ます。出版譜ごとに出版者の判断を仰いで下さい。

?ありがちな誤解?

誤解
 要するに楽譜をコピーするからいけないのであって、スコアから手書きのパート譜を作れば問題ない。
正解
 楽譜そのものが著作物であるという誤った解釈です。手書きにしようがタブ譜に書き換えようが、楽譜の数を増やすのはすべて「複製」になります。時間がかかるだけの無駄な努力です。

誤解
 入場料無料の演奏会ならば、著作権料はかからないので、演奏する曲のパート譜をコピーしても使用料は発生しない。
正解
 「演奏権」と「複製権」は別物です。たとえ著作権料(演奏使用料)がかからない演奏会であっても、楽譜を複製する際には「出版使用」の許諾を受けなければなりません。さらに言えば、そもそも複製した楽譜を演奏会で使う使わないは関係ありません。練習に使うためだけの複製でも許諾が必要です。
 なお、たとえ入場料が無料であっても、プロの演奏者やエキストラに報酬を支払っている場合などには、著作権料の支払義務が発生します。ご注意下さい。詳しくは、「用語集」「演奏権」を参照してください。

手続き

 楽譜のコピーに関しては、JASRACの「出版部」が窓口になりますが、申請書類の郵送依頼はWeb上でできます。JASRACのホームページの「申請書類等の郵送サービス」から「出版物に関する申請書類」を選択します.初めて申請する場合は「書類一式」を取り寄せた方がいいでしょう。
 記入欄にいくつか意味の分りにくい用語がありますが、まず「初版」とはある曲のパート譜を初めてコピーすること、「再・重版」は同じ曲を追加でコピーすること、「発行」は団員に配ることと解釈します。また、印刷物の「種類」「曲数」は曲集などを想定した用語ですから、パート譜コピーの場合は「出版物1種類=パート譜一式」と解釈します。したがって「出版物に利用する曲数」は常に「1曲」です。例えば3曲分のパート譜を作りたければ、「1曲」を「3種類」発行することになります。JASRACに提出する書類は「音楽著作物使用許諾申請書(出版用)」と「出版使用著作物明細書」を曲ごとに各1部です。

音楽著作物使用許諾申請書(出版用)記入項目
 出版物製作団体(パート譜を作る団体)と代表者名、出版物(パート譜)の部数などを記入します。ちょっと悩むのは「出版物の種類」ですが、パート譜は「ピース、曲集、歌詞集」に含まれます。「定価」は0円とします。
出版使用著作物明細書記入項目
 似たようなことをもう一回書くだけですが、「使用者コード」は初めて出版許諾申請をする団体なら空欄とします。二回目以降はJASRACから割り当てられたコードを記入します。

 申請後の使用料の支払い、コピーライト(著作権者)の表示、許諾証紙の貼付等は申請書類に同封して送られてくる「使用許諾手続きの手引き」に詳細が記載されています。

3. 演奏

 JASRACに演奏許諾申請せずに演奏会を開くことはまずないでしょう。JASRACは演奏会場として使用されるホール等の使用スケジュールやチラシなどをチェックして、申請漏れがないか確認しています。また、演奏会当日に、巡視員の方がパンフレットに記載されたプログラムを見に来られることもあります。
 なお、入場無料でエキストラ等への報酬がなく、かつ純粋に非営利目的の演奏会の場合は、著作権法の規定により著作権者の許諾なしに演奏使用することができます。(「用語集」「演奏権」を参照。)

よくある質問とその解答

質問
 エキストラ等への「報酬」とは、交通費等の経費を現金で支払ったり、運送業者に楽器の運送費用を支払ったりというのも含むのか?
解答
 含みません。ここでの「報酬」とは「実演の提供に対する対価」ということです。従って、交通費や食費などいわゆる「実費」の支払いについては「報酬」に該当しません。ただし、名目が交通費の支払いなどであっても「実費」の範囲を越える場合には「報酬」に該当することとなります。

質問
 アンコール曲についても演奏許諾が必要か?
解答
 もちろん必要です。演奏許諾だけでなく、楽譜の複製や録音についても許諾を得なくてはなりません。

手続き

 音楽著作物の演奏使用に関しては、JASRACの各支部が窓口です。連絡先はJASRACのホームページの「JASRACの紹介」にあります。今のところ支部のホームページはありませんので、Web上で書類の郵送依頼をすることはできません。
 申請書類は原則として演奏会の5日前までに各支部に提出します。書類は二種類ありますが、このうち「演奏曲目報告書」は、曲目が未定であるなどやむを得ない場合には演奏会終了後に提出することもできます。この場合、もう一方の「音楽著作物使用許諾申込書(演奏)」に「演奏曲目報告書」を提出する期日を演奏会開催日から5日後までの範囲で明記して提出します。演奏会のパンフレットに演奏許諾番号を記載したい場合は、早めに「音楽著作物使用許諾申込書(演奏)」だけでも提出すれば許諾番号が通知されてきますので、その後、「演奏曲目報告書」の提出、使用料の支払いという手順を踏めばいいでしょう。申請から許諾までに要する日数は各支部に問い合わせてください。
 なお、当たり前のことですがJASRACもミスをすることがあります。演奏する曲の著作権が消滅しているか否か、使用料がいくらになるかといったことはあらかじめJASRACのホームページで調べておいた方が無難です。

音楽著作物使用許諾申込書(演奏)記入項目
 記入する上で悩むような項目はありません。
演奏曲目報告書記入項目
 著作権切れと分っている曲があっても、演奏曲目全てを記入する必要があります。アンコール曲には(*)を付けて記入します。曲名は原題、作曲者はフルネームを書く必要があります。外国曲の場合で、邦題しか書いてないようなスコアしか入手できなかった場合は、これを調べるのが最も手間がかかるかもしれません。
 作曲者の名前や原題の一部だけ分っている場合は、JASRACのホームページの「作品データベース検索」で検索することができますが、このデータベースは作曲家や使用者の届け出により作られているので全ての曲が網羅されているわけではありません。他に信頼できるデータベースとして、南谷博一氏のホームページ(http://www.nagoya-jp.com/nanya/)の「蔵譜リスト」があります。

4. 録音とCD等の作製

?ありがちな誤解?

誤解
 演奏会のCDを作って出演者に実費で頒布するのは、著作権法で言う「私的使用」すなわち個人で楽しむための著作物の使用であるから、著作権者の許諾は必要ない。
正解
 「私的利用」により複製が許されるのは、極めて限られた範囲でしか使用されない場合です。例えば、一個人しか使用しない場合や、家庭内での使用に限定される場合です。分かり易い例としては、自分だけが利用する目的で、購入したCDの曲をMDなどに録音する場合や購入してきた楽譜をコピーする場合が「私的利用」に該当します。したがって、出演者という多数の者に頒布するということは、ここで言う「私的利用」の範囲には入りません。また、前提として、複製をしようとするのもそもそも、演奏を録音すること自体が「複製」に当たりますから、著作権者の許諾が必要となります。

 演奏を録音してCD等の形で記念に取っておくためには著作権者の許諾が必要になります。著作権者である作曲家がJASRACと信託契約を結んでいる場合は、JASRACに「録音使用許諾」を申請することになります。
 なお、演奏を録音する際には、著作権者だけでなく実演家(出演者)の同意も必要です。実演家とは実際に演奏を行った者を指し、プロフェッショナルであるかアマチュアであるかは関係ありません。実演家は録音やCD作製を許諾する権利を持ちます。実演家が持つこのような権利は「著作隣接権」と呼びます。

手続き

 窓口は「録音部録音二課」です。書類の取り寄せには、出版許諾のときと同様にJASRACのホームページの「申請書類等の郵送サービス」のページが利用できます。このページで少し悩むかもしれないのは「予定している録音物の種類(タイトル数)」ですが、頒布するディスクが2枚組であれば2種類という意味です。

音楽著作物使用許諾申込書(録音)記入項目
 ディスクの内容が異なるごとに1部提出します。例えば2枚組のCDであれば2部提出します。記入項目で注意すべき点は「製造数」で、使用料は製造数に比例しますので多く書くと損をします。逆に少なく書くとせっかくのJASRACロゴ入りの許諾証紙が不足しますが、同じディスクを再度申請するのは簡単な手続きで済みますから正確に製造数が把握できないときは少なめでいいでしょう。また、実費頒布の場合は「定価」はなし、または0円と記入します。「頒布年月日」は大まかに言ってディスクができ上がりそうな頃を適当に書けばよいでしょう。
録音使用著作物明細書
 これもディスクの内容が異なるごとに1部提出します。「著作物名」は著作権が消滅している曲も含めて収録曲をすべて記入します。「定価」は0です。その他に悩むような項目はありません。

5. パンフレットでの楽譜の引用

 演奏会のパンフレットの曲目紹介にその曲のモチーフが引用されているのをよく見かけますが、このような引用も著作物の「複製」に該当します。パート譜作成と同様に「出版使用」の許諾を得る必要がありますので注意してください。

6. 編曲作品の使用

 I-1「著作権者とその権利」の「翻訳権、翻案権等(編曲権)」で述べたように、著作権の残存している作品を著作権者の承諾なしに編曲することはできません。JASRACの編曲審査を受けるためには必ず原曲の著作権者の承諾が必要ですから、JASRACのデータベースに登録されている編曲作品はすでに著作権者から編曲の承諾が得られており、その点は問題がありません。しかし、原曲の著作権者から承諾を得た合法的な編曲作品がすべてJASRACに登録されているわけではありません。編曲者がJASRACと信託契約を結んでいない場合や、契約を結んでいても編曲者が特に編曲作品の著作権を主張しない場合など、JASRACの審査を受けない場合もあり得ます。また、編曲作品に「創作性」が認められるか、「同一性」が保持されているかの判断に明確な一般基準はありません。
 以上のことから、演奏会を運営する者が個々の編曲作品の合法性を確認することは容易ではありません。ただし、編曲作品の合法性は原著作者と編曲者との間の問題ですから、演奏会で編曲作品を取り上げること自体に問題があるわけではありません。編曲者がJASRAC信託者である場合には、その二次的著作権も含めてJASRACが管理していますから、編曲者名を明記して使用申請することにより、権利関係についての判断をJASRACに委ねるのが現実的な選択肢と考えられます。編曲者がJASRAC信託者でない場合には、直接編曲者の指示を仰いでください。

手続き

 出版使用、演奏使用、録音使用いずれの場合も、「音楽著作物使用許諾申込書」にそれぞれの楽曲について作曲者名とともに編曲者名を記入します。JASRACは編曲者名が記入されている場合にはその楽曲の権利関係を調べ、編曲の登録があれば「著作物使用料規程」に基づいて編曲者に使用料の一部を分配し、編曲の登録がなければ編曲者には使用料を分配しません。
 この場合、JASRACは編曲が著作権者の承諾を得たものであるかどうかを調べることはしません。

?ありがちな誤解?

誤解
 JASRACのホームページには、信託契約を結んだ著作権者の「すべての著作権」を管理するとの記述がある。これは「翻訳権、翻案権等」もJASRACが管理していることを意味するから、編曲者名を書いて使用申請し、JASRACの許諾が得られた場合には、その編曲作品が著作権者の承諾を得た合法的なものであることの証明になる。
正解
 「すべての著作権」といっても、JASRACが管理するのは著作物使用料に関連した「複製権」「演奏権」などの範囲に限られ、登録されている楽曲に関する全ての権利関係を管理しているわけではありません(I-3「JASRAC(日本音楽著作権協会)の役割」の「信託者(著作権者)が委託する著作権」参照)。したがって、登録されていない編曲作品が合法的であるかといった法律的判断はJASRACとは無関係であり、JASRACの使用許諾が法律的根拠となることはありません。